sc-008 NEW WORLD WATER / 有川滋男

高精度な「曖昧さ」/ポスト・セルフ・ドキュメンタリー

 部屋の窓から外を眺めて、彼は(または私は)一日を過ごす。これは、彼(または私)についての話でも、彼の(または私の)奇妙な家族や友人の話でもなく、私たちの(または彼らの)隠された多義性そのものについての話である。ビデオカメラの前において、"彼"は"私"としての、"私"は"彼"としての役割を演じることで、わたしたちの生活に沈殿したものをあばこうとする。



ISBN978-4-86219-100-7  3800円(本体価格)+ 税

帯文より

UNIMOVIE短編映画祭/イタリアでの招待上映や、タイ・プーケットで展開されたアート・プロジェクト"Platr"の参加など、国内外から注目される 新進気鋭の映像作家・有川滋男の "高精度な『曖昧さ』"

有川滋男 ARIKAWA Shigeo

1982年東京生まれ。2006年東京芸術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。
2014年よりオランダ、アムステルダムのアーティスト・イン・レジデンスプログラ ム、ライクスアカデミーにて映像・ビデオインスタレーション・写真などを滞在制作。容易に知覚できるが認識し難いイメージを作り出すことで、"みること" を拡張し、イメージの在処を明らかにしようと試みている。主な上映歴に、ロッテルダム国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭、香港国際映画祭、バンクーバー国際映画祭など。

作家のウェブサイトへ >> https://shigeoarikawa.com

知人たちから本作の感想を聞く機会が何度かあったのですが、全編にわたって登場する青年がこの作品の作者だということをほとんどの人が理解していました。作中で直接そのことは説明されませんが、作品に含まれる長い時間経過や、被写体とカメラの距離感などの情報から、無意識にそれが了解されるようです。映像世界の身体を注視するまなざしは、現実世界でのそれよりも鋭くなっているのかもしれません。
この作品は、何もしない青年とその家族の日常生活を淡々と描いた劇映画のような体裁をしていますが、実態は時間軸をともなったセルフ・ポートレートの集積であり、その映像世界に立ち上がる身体は独特の存在感を獲得しています。その身体とは、ある意味で現実世界では決して見ることができない生々しい人間と言えるでしょう。それは捉えどころのないもので、この作品はそのような「不確かで曖昧な存在である人間」を正確に捉えた一編と考えられます。ナルシシズムに耽溺せず、また自虐的にもならず、極めてニュートラルに自己を見つめる精度の高さこそがこの作品の強度であり、時代の精神を表しているのではないでしょうか。 /SOL CHORD
 


Publication Date: October 30, 2008
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